ベトナム建国の祖フン王を祭る日


山崎  こんにちは、山崎千佳子です。 

ソン  こんにちは、ソンです。山崎さん、昨日、4月16日はベトナムの祝日だったんですが、何の日かわかりますか?

山崎 はい。私ももう3年半以上住んでいるので、わかりますよ。フン王を祭る日ですよね。

ソン そうです。ベトナム建国の礎を築いたと言われるフン王の命日なんです。旧暦の3月10日で、今年は昨日、4月16日でした。

山崎 ベトナムでは、お正月もそうですし、重要な行事はほとんど旧暦で行われるんですよね。

ソン はい。今日のハノイ便りは、フン王を祭る日についてお伝えします。ベトナム人なら、誰もがフン王を敬い、命日の旧暦3月10日は大事な日となっています。

ベトナム建国の祖フン王を祭る日 - ảnh 1
4万人以上が参加するフン神社祭り

山崎 これもベトナムの素朴な疑問だったんですが、祝日が少ないベトナムで、どうしてこのフン王の命日が休みになるほど重要なんでしょう?

ソン フン王(フンヴオン=Hung Vuong=雄王)は、ベトナムの歴史上、最初の国家とされるバンラン(Van Lang=文郎)国をつくったと言われています。その時代に関する歴史資料や遺跡などがとても少ないので、伝説の国、伝説の王とも言われています。

山崎 フン王というのはバンラン国の王の総称で、個別の名前ではないんですよね。第18代まであると言われているんですか?

ソン これもはっきりとしたことはわかっていないんです。旧暦の3月10日がフン王の命日というのも、伝説の一説なんですね。

山崎 なるほど。一体、何代目のフン王の命日かと思っていたんですが、詳細は謎なんですね。紀元前2879年にバンラン国がつくられたという記録があるようですが、これもはっきりしたことはわかっていないんですね。

ソン そうですね。語り継がれている伝説によりますと、古代中国の伝説上の8人の帝王の子孫であるラック・ロン・クアンという王子がいました。山の姫、オーコーと結婚して、子供が100人できました。

山崎 ラック・ロン・クアンもオーコーもハノイ市内の道路名でありますね。この2つの道は接続しています。夫婦だからでしょうか。

ソン そうですね。その100人の子供たちが大きくなると、ラック・ロン・クアンは50人の子供を連れて海のある平野部へ、オーコーは残りの50人の子供を連れて山へ行き、別々に暮らすことになりました。ラック・ロン・クアンと共に過ごした50人の子供の中から、フン王が出て、バンランという国をつくったと言われているんです。

山崎 神秘的な伝説ですけど、どうしてそんなにフン王がベトナムの人たちに敬われているんでしょう?「フン王を祀る信仰」はユネスコの無形文化遺産にも登録されていますよね?

ソン はい。その100人の子供がベトナム人のルーツと考えられているからです。ベトナム民族はお父さんのラック・ロン・クアンとお母さんのオーコーから生まれたという考えです。もともとはみんな兄弟ということから、民族の団結と人々の結びつきが大事にされているんです。

山崎 なるほど。それで、フン王の命日は自分たちの先祖の命日という訳なんですね。

ソン そうなんです。ベトナム全土には、フン王に関する神社が1417ヶ所あります。その数を見ても、ベトナム人にとってのフン王の位置づけがわかると思います。

山崎 そうですね。中でも、東北部のフート省にある神社が一番有名ということですね。

ソン はい。フート省はフン王が建国したバンランの中心地だったとされるんです。フート省にあるフン王を祀る神社のエリアはベトナム民族の発祥の地とされています。

ベトナム建国の祖フン王を祭る日 - ảnh 2
フン神社祭りの見越し

山崎 ソンさんは、フート省のフン王神社は行ったことがありますか?

ソン あります。3回ぐらいあります。ベトナム人だったら、フン王の命日の旧暦の3月10日にフン王を祀る神社にお参りをしたいと誰でも思うと思います。

山崎 じゃあ、ベトナムの人はみんなフート省のフン王神社に行っているんでしょうか?

ソン 北部に住んでいる人はかなりの数の人が行っていると思います。特に旧暦の3月10日はどこにいても、フート省の神社の方角に向けて拝む習慣がありますね。

山崎 それはすごいですね。ハノイの大学で学ぶフート省出身の学生(Han Van Hien)の話です。

(テープ)

「ベトナム人にとって、旧暦3月10日は本当に意義深い日です。フート省出身の私にとっては、更に特別です。子供の頃から、祖父母や両親にこの特別な日の意味を教えてもらっていました。今は故郷を離れてハノイで勉強していますが、いくら忙しくてもこの日には帰省して、ベトナムをつくったフン王を拝むようにしています。」

山崎 フン神社は、ハノイからだとどれくらいですか?

ソン 車で1時間半ぐらいです。そんなに遠くありません。フン神社というのは、フート省の山に建てられた数ヵ所の神社や寺の総称なんです。

山崎 いくつかをまとめて、フン神社と言っているんですね。

ソン はい。それらの神社やお寺は13世紀頃から18世紀頃までにつくられて、その後何度も建て直されました。最近では、1999年から2009年の間にいくつかの神社や寺が改築されています。

山崎 有名な石碑があるようですが。

ソン はい。ホーチミン元主席がフン神社を訪れた時に残した言葉が、記されているんです。「フン王が苦労してつくってくれた国を、私たちは共に守っていかなければならない」と書かれてあります。

山崎 フン王の命日は昔から祝日だったんですか?

ソン 2007年に祝日に制定されました。それから、毎年盛大な祭りが行われています。およそ400万人が訪れるベトナム最大規模の祭りとなっています。

山崎 400万人?すごいですね。

ソン はい。政府の代表者なども出席して、フン王に線香を手向けます。

山崎 国家行事ですね。

ソン そうですね。今年の新しい点は、フート省のフン神社で線香を手向ける儀式が行われた時に、全国のフン神社で同じ儀式が一斉に行われたということです。

山崎 時間を決めてやったんですか?

ソン そうです。同時に行うためにですね。神社に行けない人は、その日に、必ず自分の家の祭壇で線香を手向けます。私の家族もそうです。フート省からおよそ200キロ離れたベトナム東北部のトゥエンクアン省に住む女性(ホアン・ティ・マイ)のコメントです。

(テープ)

「毎年、旧暦の3月10日には必ずフート省のフン神社へ行っています。学生時代、歴史が好きだったこともあって、フン王の命日にはフン神社を訪れることにしています。家はフート省から遠いですけど、お線香をあげに来ています。自分のルーツさがしのような気がするんです。」

ソン ベトナム人は小さい時から、“どこにいても、3月10日の命日は覚えておくこと”と教えられてきました。こうして自然と、民族としてのつながりが伝えられていきます。

山崎 外国人から見ると、単なる祝日の1つなんですが、やはり深い意味があるんですね。おしまいに、一曲お送りしましょう。「~」です。

(曲)

「~」をお送りしました。

今日のハノイ便りは、ベトナムの祝日でもあるフン王を祭る日についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。


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