山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
ソン こんにちは、ソンです。今日のハノイ便りはカーチューの保存活動についてお伝えします。
山崎 カーチューはユネスコの無形文化遺産に登録されていますよね。ベトナムの伝統民謡でしたっけ?
ソン 民謡とは、まとめられないですね。2009年にユネスコの無形文化遺産となったカーチューは、総合伝統芸能という感じでしょうか。3つの伝統楽器の演奏に合わせて、古いベトナム語の詩を歌うものです。
(写真:cinet.vn)
山崎 昔のベトナム語の歌詞ということは、聴いている人はその意味を理解できるんでしょうか?
ソン できます。昔の言葉ですけど、今のベトナム語とちょっと違うくらいです。
山崎 演奏に使われる3つの伝統楽器はどんなものですか?
ソン 弦楽器のダンダイ、打楽器のファック、それにチョンチャウという太鼓の3つです。山崎さん、カーチューの意味は知ってますか?
山崎 単にその伝統芸能を指す言葉かと思いました。何か意味があるんですか?
ソン はい。ベトナム語で、カー は歌、チューは札という意味です。歌に対するご褒美というか、聴いていた人から竹でできた札をもらって、その札に書いてある金額をもらったことから、カーチューと呼ばれるようになりました。
山崎 おもしろいですね。カーチューではどんなことが歌われるんですか?
ソン 歌詞の内容のほとんどが、祖先や神を称えるものです。15世紀から19世紀の間、カーチューは村の集会所や資産家の家、宮廷などで特別な日に上演されました。その後は、村の祭りや結婚式、長寿を祝う席などでも行われるようになって、庶民にも広まりました。
山崎 村の集会所というのは、前にハノイ便りでお伝えしたことがあるディンですか?
ソン そうです。その時取り上げた、ハット・クア・ディン、集会所の歌もカーチューなんですよ。
山崎 そうなんですか?同じものなんですか?呼び方が違うだけなんでしょうか?
ソン はい。その他にも、内容によって、ハット・アー・ダオ、女性の歌と呼ばれたり、ハット・クア・クエン、宮廷の歌となったり、ハット・ニャー・トー、官邸の歌など、他の多くの呼び方もあるんです。
山崎 へえ。細かく分類されているんですね。歌詞の内容が違うだけですか?
ソン 歌詞の内容と上演される場所も違います。
山崎 ああ、それぞれの題名でわかりますね。村の集会所で行われたり、宮廷や官邸で上演ということですね。
ソン そうです。カーチューの歌詞は古いベトナム語で、漢字を応用して作られたチュノム文字や漢詩で書かれました。これを読んで理解出来る学者など知識人の間で流行りました。
山崎 カーチューはベトナム全土で伝わってきたんですか?
ソン いえ、北部のフート省から中部のクアンビン省までになります。全土でなくても、15の省や市と広い範囲になるので、保存活動が難しくなっています。
山崎 北部から中部というと、ハノイもですか?
ソン はい。ハノイは特に、カーチューの発祥地の一つとされているんです。多くのカーチュークラブが活動を行っています。
山崎 ユネスコの無形文化遺産でもありますしね。守っていかないとだめですからね。
ソン そうなんです。無形文化遺産登録後に、ハノイのカーチュークラブの数が増えたんです。2009年にはクラブの数は9でしたが、現在は14になりました。
(写真:sankhau.com.vn)
山崎 いいですね。減るのでなく増えるのはうれしいことですね。メンバーは何人ぐらいなんですか?
ソン 全部で220人です。その中の50人は、人にカーチューを教えられるレベルです。これらのクラブは全て自費で活動を行っています。
山崎 メンバーはカーチューを本業にしている人ですか?それとも副業で?
ソン 本職にしている人たちです。ここで、ハノイ民間文芸協会会長( Do Thi Hao)の話です。
(テープ)
「近年、多くのカーチュークラブが結成されて、活動を行っています。いずれのクラブも、カーチューの保存を真剣に考えている人たちが自発的に立ち上げました。」
ソン しかし、ハノイのカーチュークラブは、カーチューの上演場所の確保などが大変なようです。借りる場所が、狭いうえに値段が高いそうなんです。
山崎 ハノイ市内は狭いですからね。観光客などが多く集まる旧市街などは、まさに狭くて高い、場所かもしれませんね。
ソン そうですね。そして、それ以外にもあるようです。あるカーチュークラブのメンバー(Vu Thi Thuy Linh)の話です。
(テープ)
「週に一回、メンバーの自宅で練習しています。北部のハイズオン省に住む有名なカーチューの歌い手に指導してもらっていましたが、高齢のかたで今は体の具合がよくないので、教えてもらえなくなってしまいました。」
ソン それぞれのクラブがカーチューの保存のため、がんばっていますが、ハノイ市の文化スポーツ観光局なども、若い世代にこの伝統芸能に興味を持ってもらうよう考えています。
山崎 そうですね。一定の年齢層だけでなくて、幅広い世代に広めることが保存につながりますね。
ソン はい。ベトナム文化遺産研究センター所長( Nguyen Thi Minh Ly)の話です。
(テープ)
「すぐにやるべきことは、若い人たちにカーチューを伝えることです。次に、カーチューの価値を理解してもらうため、PR活動を強化しなければなりません。」
ソン カーチューの有名な演者が高齢になってきたり、カーチューを歌えたり、鑑賞したりする事ができる若者が少なくなっているなど、保存活動もそんなに簡単ではないようです。
山崎 なるほど。カーチュークラブが以前より増えたと聞いて、保存についてあまり心配する必要はないのかなと思ったんですが、そうでもないんですね。
ソン はい。カーチューの歌い手を育てるというのも大事ですが、カーチューの観衆を育成することも重要な意義を持っているんです。
山崎 お客さんを育てる、ですか?
ソン はい。例えば、ハノイ郊外にある小学校は、カーチューを学校の課外活動に取り入れました。ベトナム音楽芸術発展センターで結成されたカーチュークラブの代表でもある所長( Phung Thi Hong)の話です。
(テープ)
「カーチューを学校の課外カリキュラムに導入する目的は、小さい時からカーチューを鑑賞して理解できるようにする、ということです。カーチューの保存のため、今後、こういった取り組みを広げていければと思います。」
ソン 現在、ハノイのカーチュークラブは、今までのカーチューのメロディーに加えて、18の新しい曲を創作しました。
山崎 へえ、オリジナルを作ったんですね。カーチューの歌い手大会もあると聞いたんですが。
ソン そうなんです。今年のカーチューのど自慢大会には、6歳から30歳までの若い歌い手36人が参加しました。
山崎 これはいいですね。若い人が自ら伝統の伝え手となるのは頼もしいですね。では、おしまいに一曲お送りしましょう。カーチューですね。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。今日のハノイ便りは、ユネスコの無形文化遺産でもあるベトナムの伝統芸能、カーチューの保存活動についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。