ハノイ郊外にあるダオトゥック村の水上人形劇



山崎  こんにちは、山崎千佳子です。

ソン こんにちは、ソンです。山崎さん、以前ハノイ便りで、ベトナム北部にあるタイビン省の水上人形劇についてお伝えしたのは覚えていますか?

山崎 覚えています。裸に赤いベストを着たテウ、でしたっけ?髪の毛を2つに結んだ以外はツルツル頭のあの人形が劇の案内役なんですよね。

ソン そうです。今日は、ハノイ郊外にあるダオトゥック村の水上人形劇をご紹介します。

山崎 タイビン省のものとは違うんですか?

ソン ガラッと変わるわけではないですが、地域が違うので劇の内容や登場人物が多少違います。さっき山崎さんが言っていた案内役のテウは、バーキーという名前になります。

山崎 へえ。人形の姿は同じですか?

ソン はい、大体同じです。水上人形劇は、タイビン省、ナムディン省、ハノイなど、ベトナム北部のホン川デルタ地方で昔から行われてきました。特に、春の祭りで上演されています。


ハノイ郊外にあるダオトゥック村の水上人形劇 - ảnh 1

山崎 テト明けの新春のお祭りですね。ベトナムでは春が祭りシーズンですからね。

ソン そうです。今日ご紹介するダオトゥック村の水上人形劇ですが、300年の歴史があると言われています。

山崎 300年。すごいですね。ダオトゥック村はハノイ郊外ということですが、どの辺ですか?

ソン ハノイの中心部からおよそ20キロ離れたところになります。ノイバイ空港の手前あたりです。

山崎 空港に行くまでには、牛がのんびりしている風景などをよく見ます。素朴な田園地帯ですよね。

ソン そうですね。ダオトゥック村には村に水上人形劇を伝えた人物を祀る石碑があります。その人の命日には村人は石碑に線香を手向けて、感謝の気持ちを表しています。

山崎 それだけ水上人形劇を大事にしているんですね。人形劇の内容は地方によって違うということですが、このダオトゥック村の水上人形劇のテーマはどんなものでしょう?

ソン 主に、田植えや鍬入れなどの農作業、水牛の飼育などの話です。遊びがテーマになったものもあります。

山崎 遊びというのはどんなものですか?

ソン 魚釣りやブランコ、レスリング、ドラゴンダンスなどです。

山崎 水上人形劇でやるには、レスリングやドラゴンダンスなど難しそうですけどね。上手なんでしょうね。

ソン はい、細かい動きなどプロの技ですよ。


ハノイ郊外にあるダオトゥック村の水上人形劇 - ảnh 2

山崎 私はまだ実物を見たことがないんですけど、インターネットの動画で水上人形劇を見てみたら、ちょっとした操作で自然な動きになるように人形がうまくできているんですね。

ソン そうですね。水上人形劇をやっている他の村と同じように、ダオトゥック村の人たちも劇で使う人形を自分たちで作っています。木製の人形の大きさは30センチから40センチぐらいで、表面には漆が塗られています。

山崎 漆で防水加工なんでしょうね。それぞれの人形のモデルはあるんですか?

ソン ベトナムの昔話に出て来る人物をモチーフにしています。

山崎 水上人形劇をもう30年もやっているというダオトゥック村の住民(Dinh Huu Tu)の話です。

(テープ)

「小さい時から、水上人形劇を見て育ちました。この伝統芸能が好きなので、自分でもやってみたいと思って、練習したんです。公演では、人形をうまく操るため、演者それぞれが協力しています。」

山崎 現在、ダオトゥック村では、水上人形劇に携わる人はおよそ30人いるそうです。最年長は70歳を超えた男性で、最年少は高校生です。15歳から参加しているというその最高齢の男性( Dinh Hoang Van)の話です。

(テープ)

「ダオトゥック生まれの私は、幼い時から水上人形劇が好きでした。だから、演者として加わったんです。この伝統芸能を守っていきたいと思っています。水上人形劇が好きな人たちは、昔から行われている楽しい演目を好みます。」

山崎 水上人形劇は何かBGMが使われるんですか?

ソン ベトナムの伝統歌劇ハットチェオの楽団が音楽を担当するんです。歌い手と楽器の演奏者がそれぞれ数人います。

山崎 生歌と生演奏が使われるなんて贅沢ですね。見ている方も一度にベトナムの伝統芸能が複数楽しめて、一石二鳥ですね。

ハノイ郊外にあるダオトゥック村の水上人形劇 - ảnh 3

ソン そうですね。昔からの演目だけでなくて、ダオトゥック村では新しい劇も制作しているそうです。ダオトゥック村水上人形劇グループのリーダー( Ngo Minh Phong)の話です。

(テープ)

「村の水上人形劇をさらに発展させるため、若い世代の演者を募って育てています。若い人たちが公演に参加することで、村の伝統芸能の知名度がさらに高まればいいと思っています。」

ソン この頃は、テレビやインターネットを通じて、ダオトゥック村の水上人形劇のピーアール活動が行われています。また、国内外の旅行会社と提携して、観劇ツアーも展開しています。

山崎 ハノイにある旅行会社社長( Nguyen Hong Dai)の話です。

(テープ)

「ダオトゥック村の水上人形劇は魅力的な観光スポットです。でも人形劇だけでなくて、ダオトゥック村には有名な遺跡もあるんですよ。」

山崎 遺跡。何があるんですか?

ソン 城跡など、昔の都の跡です。ハノイに置かれたタンロンの前の都ですね。有名ですよ。

山崎 へえ。それは観光客を引き付けやすいですね。

ソン そうですね。そして300年の歴史があるダオトゥック村の伝統芸能ですが、5世代にわたって、水上人形劇に関わっている家もあります。

山崎 5世代。それはすごい。みんなきちんと受け継いできたんですね。

ソン はい。昔の水上人形劇の演者には掟があったそうです。

山崎 掟?何でしょう?

ソン 人形劇の仕掛けの秘密を誰にも教えないということです。受け継ぐ息子やその嫁にはOKでも、娘にはだめだったそうです。嫁ぎ先でそれが知られると困るということなんですね。なので、娘には人形の動かし方も作り方も見せなかったそうです。


ハノイ郊外にあるダオトゥック村の水上人形劇 - ảnh 4

山崎 厳しいですね。でも、そうやって守ってきたんですね。

ソン はい。ベトナムには『息子の嫁は自分の娘。娘の夫は赤の他人』ということわざもあるんですよ。

山崎 ううーん、わかるような気もしますが、ちょっと怖いですね(苦笑)。でも、今は変わったんですよね?

ソン はい。掟はもうありません。若い世代の演者の育成に力を入れています。しかし、水上人形劇だけで生計を立てることはなかなか難しいので、この伝統芸能を受け継ぐ若者が非常に少なくなっているそうです。

山崎 村の人たちも人形劇は副業で、本職は農業なんですよね?

ソン そうです。観光客が来ても、それだけでやっていける収入ではないようです。

山崎 これはどこにでもある厳しい現実かもしれませんが、伝統を守るためがんばっている人たちが報われるシステムができるといいですよね。では、おしまいに一曲お送りしましょう。「~」です。

(曲)

「~」をお送りしました。今日のハノイ便りは、ハノイ郊外にあるダオトゥック村の水上人形劇についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。

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