(VOVWORLD) - ベトナム北部の山岳地帯に暮らす少数民族、パジ族はテイ族の一支族で、人口は約2,000人と決して多くはありませんが、独特で魅力的な文化を持つ民族として知られています。特に注目したいのが、彼らの心と生活に深く根ざした楽器「円形琴(えんけいきん)」です。
まずは、その美しい音色をお聞きください。
(歌と円形琴のBGM)
パジ族は「黒テイ族」とも呼ばれ、主にラオカイ省の高地で暮らしています。彼らにとって円形琴は、単なる楽器ではありません。あらゆる感情や思いを表現し、分かち合うための大切な手段なのです。
地元の芸人ル・シン・レンさんのお話をお聞きください。
(テープ)
「パジ族にとって円形琴は切っても切れない存在です。どこへ行くにも、特に若い男女は円形琴の音色と歌声を通じて心を通わせるのです」
パジ族の円形琴には、他の民族の楽器にはない特徴があります。同じテイ族の琴「ティン」に似ていますが、表面がより大きく、ネックが短く、ティン琴の2弦に対して4弦を持っています。
そして何より特別なのが、その美しい装飾です。彫刻や緻密な絵付けによる花模様で飾られ、特に頭部は龍の頭の形になっています。
ラオカイ省ムオンクオン村の演奏家、チャン・バン・ミンさんにお話を伺いました。
(テープ)
「琴の装飾模様はとても美しく、パジ族の伝統的な模様や花紋様が施されています。中でも龍の頭は、生命力や幸運、繁栄を象徴する大切なモチーフです。この琴があることで、私たちの歌声がより美しく響くのです」
パジ族の音楽文化で興味深いのは、円形琴は必ず複数の人で演奏されることです。一人が歌い、一人が演奏する、あるいは男女が掛け合いで歌う。決して一人だけでは演奏しません。
演奏家のポー・サオ・ミンさんに、その理由を教えていただきました。
(テープ)
「正月や祭日には必ず円形琴を使います。歌う時は男女1人ずつが掛け合いで歌うのが基本です。一人では美しい歌になりませんし、調子も出ないのです」
パジ族の家庭を訪れると、ほぼ例外なく円形琴があります。そして面白いことに、年代によって演奏する歌が変わります。幼い頃は子守歌、少し大きくなると童謡、そして成人になると恋歌を歌うのです。
ただし、円形琴には演奏してはいけない場面もあります。葬式や家族に病人がいる時など、悲しい場面では絶対に演奏しません。これは、円形琴が喜びや幸せを表現する楽器だからなのです。
(歌と円形琴のBGM)
現代社会の変化の中で、この伝統文化を守り続けている人たちがいます。
ムオンクオン村の演奏家、ポー・チン・ジンさんは15歳の時から円形琴と共に人生を歩んできました。約10曲の古い民謡を記憶し、地域の文化活動に参加するだけでなく、現代的な方法での文化普及にも取り組んでいます。
(テープ)
「私はソーシャルメディアを活用して、多くの人にパジ族の文化を知ってもらっています。琴を持って歌う姿を多くの方に気に入っていただき、音楽に合わせて踊ってくださる方もいるんです」
パジ族には独自の文字がないため、これらの歌は全て口承で何世代にもわたって受け継がれてきました。若い世代への継承も積極的に行われています。演奏家のチャン・バン・ミンさんは、定期的に子どもたちに円形琴を教えています。
(テープ)
「週に1〜2回、子どもたちに教えています。一週間もあれば音に慣れ、琴に慣れて歌えるようになります。でも何より大切なのは、琴の音を心から愛することです。愛がなければ、学ぶことも歌うこともできませんからね」
時代の波にもまれながらも、情熱的な人々の努力によって、円形琴の美しい音色とパジ族の心温まる民謡は、ベトナムの山間部に今もなお響き続けています。