(VOVWORLD) -ベトナム北部タイグエン省プートーン村のコックトック集落に住むチュウ・ティ・チュンさん(70歳)は、古希を過ぎた今もなお、一針一針に情熱を注ぎ続けています。チュンさんは、その器用な手先で伝統的な模様を織りなすだけでなく、少数民族赤ザオ族の刺繍技術を次世代に引き継ぐため、若者への伝承活動にも粘り強く取り組んでいます。
チュンさん(右)
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赤ザオ族の一家に生まれたチュンさんは、わずか7、8歳の頃から、祖母や母、そして姉たちより刺繍の手ほどきを受けてきました。周囲の子供たちが遊びに夢中になっている間も、チュンさんは布に向き合い、空や地、山林、鳥獣、そして川といった自然を象徴する紋様の描き方を懸命に学びました。その幼い日に踏み出した最初の一歩が、民族の伝統文化に生涯を捧げる基礎となったのです。
チュウ・ティ・チュンさんは、次のように語っています。
(テープ)
「刺繍は幼い頃から身につけてきました。年をとった今、子どもや孫、そして現地の女性たちにこの技術を伝え、自分たちの民族のアイデンティティを守っていきたいと考えています。今伝えなければ、伝統はすべて失われてしまいます。伝統を守り続けることで、私たちの文化をより一層輝かせていきたいのです」
チュンさんは長年、「ティエンアン」という名の協同組合を通じて、地元の女性や若者たちに熱心に刺繍を教えてきました。2020年からは、同組合が主催する刺繍教室の「講師」を務めています。
チュンさんの指導は親しみやすく、かつ忍耐強いことで知られ、これまでに約80人に教えてきました。その内の多くの人は、小さなバッグやスカーフ、伝統的な帽子に至るまで、精巧な刺繍製品を自らの手で作れるようになっています。
チュンさんから技術を学んだ受講生の一人、ホアン・ティ・トゥエンさんは次のように話しています。
(テープ)
「チュンさんは非常に熱心かつ丁寧に指導にあたっており、一針一針、糸の一本に至るまで細やかに教え込んでいます。受講生への対応も非常に熱心で、午後5時を過ぎてもなお、熱心に指導を続ける姿が見られます。受講生たちは、分からない点があればその都度質問し、彼女のサポートを受けます。刺繍を学ぶことは、赤ザオ族のアイデンティティや先祖から受け継がれた文化を守り伝えるという、極めて重要な意味を持っています」
チュンさんが開く刺繍教室には、14歳から15歳の少年もいました。彼女の献身的で細やかな指導により、子供たちは基本的な針の運び方を習得するだけでなく、布の上に民族伝統の模様を描き出せるまでになっています。こうした授業を通じて、子供たちはテキスタイルの一針一針に込められ赤ザオ族の文化価値を深く理解するようになります。
受講生の一人、ノン・トゥ・ハさん(14歳)は次のように話しています。
(テープ)
「先生は多くのことを丁寧に教えてくれました。私自身、この刺繍という仕事が好きになりましたし、これからもこの伝統を守り、発展させていきたいです。」
このような刺繍教室は、文化の継承に貢献するだけでなく、山岳地帯に住む女性たちの持続可能な生計の道を切り開いています。生徒たちが手がけるストールや帽子、マスク、テーブルクロス、クッションなどの刺繍製品は、消費者からの人気も高まっています。これらの製品は、農業ブースや協同組合の店舗でも販売されるようになりました。これにより、「ティエンアン」協同組合は、刺繍と薬草を組み合わせた製品を毎月200点以上出荷しており、主にザオ族やテイ族の女性たち15人から20人に安定した雇用を提供しています。
「ティエンアン」協同組合のリー・ティ・クエン組合長は次のように述べています。
(テープ)
「協同組合のメンバーにとって、チュンさんは情熱に満ちたかけがえのない存在です。刺繍の熟練した技術を持つだけでなく、責任感を持って仕事に取り組み、仲間を助け、後進の指導にも尽力してきました。若い世代は、『民族の伝統的な紋様を守り、次の世代へ情熱を伝えるのは自分たちの使命だ』と強く感じています」
髪の毛は白くなり、視力もかつてほどではありませんが、チュンさんは今も毎日、家の軒先に座り、慣れた手つきで一針一針、丁寧に刺繍を施しています。彼女が作り出したのは、ただの美しい織物ではありません。そこには伝統文化への深い愛情が込められています。山岳地帯に暮らす赤ザオ族の鮮やかな伝統の色が、人々の暮らしの中で絶えることなく受け継がれるよう、彼女は今日も静かにその情熱を若者たちに伝えています。