山崎 こんにちは、山崎千佳子です。ソンさんとハノイ便りをお送りします。ソンさん、よろしくお願いします。
ソン お願いします。今日の話題は、ベトナム南部の伝統民謡ドンカータイトゥーです。
山崎 ドンカータイトゥー。どんなものですか?
ソン 元々はフエの宮廷雅楽から派生したもので、19世紀の終わり頃にベトナム南部で広まり、南部を代表する民間芸能になりました。ドンカータイトゥーは漢字で書くと「琴歌才子」、琴、歌、才能の才、子供の子と表しますが、琴に合わせて歌う才子という意味です。ベトナム語で、才子は楽器も歌もできる人という意味があります。
山崎 琴が使われるんですね。
ソン 琴だけでなく、他の弦楽器も使われます。ベトナム南部の人たちにとって特別な思い入れのあるドンカータイトゥーは、農作業の後などにみんなで集まって、地面に座って演奏する事が多く、農民の娯楽として行われてきました。
山崎 昨年には、このドンカータイトゥーがユネスコ=国連教育科学文化機関の無形文化遺産として登録されたんですね。
ソン そうなんです。今日は、ベトナムの離島にあるドンカータイトゥークラブについてお伝えします。
山崎 どこの島ですか?
ソン ベトナム南部、キエンザン省の沖合にあるトーチューという島です。タイランド湾にあって、ベトナム本土最南端にあるカマウ岬からは北西、フーコック島からは南西のところにあります。ベトナムの最も南西にある離島です。
山崎 ベトナム本土からはかなり離れていますよね?何人ぐらい住んでいるんですか?
ソン ベトナム最南端のカマウ岬からおよそ150キロぐらい離れている島なんですが、およそ500世帯が住んでいます。この他、ベトナム人民軍の兵士が駐屯しています。島には、2001年にドンカータイトゥークラブが結成されました。
(テープ)
山崎 お聴き頂いたのは、トーチュー島のドンカータイトゥークラブのメンバーの歌声です。
ソン 島に響く歌声は、ベトナム本土を離れてこの島に暮らす島民を穏やかな気持ちにさせています。
山崎 初めは、ドンカータイトゥーを歌える島民が、時間のある時に集まって歌っていたそうです。その後、クラブを結成することになって、演奏付きで歌うようになったということです。
ソン 島に住むグエン・ティ・ズン( Nguyen Thi Dung) さんは、夫と二人でこのクラブに参加しています。「漁や家事の後に集まって、娯楽としてドンカータイトゥーを歌う」とズンさんは話します。
(テープ)
「本土から遠く離れたこの島に住むのは、やはり寂しさを感じる時があります。そんなこともあって、毎晩集まって、ドンカータイトゥーを練習します。訪れた観光客との交流には、ドンカータイトゥーを歌い、とても楽しいひと時を過ごします。この島での生活には、精神面でドンカータイトゥーが欠かせません。駐屯兵の人たちもドンカータイトゥーが好きなようです。」
ソン ここで、ドンカータイトゥーを一曲お送りしましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。
ソン トーチュー島のドンカータイトゥークラブは、レ・チュオン・ザン( Le Truong Giang) さん抜きには語れません。
山崎 どんな人ですか?
ソン ザンさんは1993年に、トーチュー島に移住しました。当時、島民の生活は、物質的にも精神的にも満たされていませんでした。フーコック県の文化芸術協会の会員だったザンさんは、島の住民たちに精神面での生活を改善するため、何かしなければと考えました。
山崎 それで、トーチュー島にドンカータイトゥークラブが出来たんですね。
ソン はい、2001年のことです。
山崎 島民のメンタル面での生活の質の向上と、島を訪れる観光客との交流や結婚式に演奏するという目的もあったそうです。ザンさんの話です。
(テープ)
「自分が発起人なので、クラブに対して責任があります。自分のお金で、ドンカータイトゥーに使う楽器や衣装などを購入しました。現在、メンバーは十数人です。自分で始めて、使う道具も自分の所有物ですから、自由に活動ができます。」
山崎 しかし、ドンカータイトゥークラブのメンバーは、それぞれが違った仕事をしているということで、クラブの定期的な活動は簡単ではないようです。また、あくまでも自由参加のため、参加者の数は変動します。メンバーが20人になった時もあれば、8人に減った時もあったそうです。クラブを作ったザンさんの話です。
(テープ)
「私はこの島に落ち着きましたが、クラブの参加者の中には、ここで思うように生計が立てられず、違う場所へ移る人もいます。逆に、新しい人が入って来た時には、その人に一からドンカータイトゥーを教えます。いろいろ大変なことはありますが、活動を続けられよう、頑張っています。」
山崎 このクラブは愛好者の同好会ということで、参加しても収入を得られるわけではないんですね。
ソン はい。島に住むチャン・キム・ハン( Tran Kim Hang) さんは、経済的に余裕がないと言いますが、夫婦でクラブに参加しています。ハンさんの話です。
(テープ)
「ドンカータイトゥをー歌うことが好きなんです。クラブの活動で、他の地方の人と会えて、楽しいです。最近では、アンザン省のドンカータイトゥークラブと交流会を行いました。赤いシャツと白いズボンの衣装で、とてもきれいでした。私もそんな綺麗な衣装を着て、あちこちに行ってみたいです。」
(テープ)
ソン トーチュー島のドンカータイトゥークラブは、その活動を通して、島に住む人たちの距離を縮めていったようです。
山崎 島に響く歌声は、ここに住む人たちや島を守る駐屯兵にとって、心の支えとなっているのかもしれませんね。では、おしまいに一曲お聴き頂きましょう。「~」です。
(曲)
「~」をお送りしました。
今日のハノイ便りは、ベトナム南部の離島、トーチュー島のドンカータイトゥークラブについてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。