チュニジアでの「アラブの春」5年の節目を迎える雰囲気(写真:インターネット)
エジプトは去る1月25日、民主化要求運動「アラブの春」による革命から5年の「革命記念日」を迎えました。革命前の強権体制への回帰傾向を強めるシシ政権は、抗議デモが起こるのを警戒して、政権に批判的な若者らの取り締まりを強化しました。自由や汚職根絶を求めた革命時の熱気は消え、国民の多くは生活への不満を抱えながら息を潜めて生活しています。
独裁政権の横暴に抗議するチュニジア人青年の焼身自殺をきっかけに、中東各地に民主化要求運動「アラブの春」が広がりました。あれから5年経ちました。チュニジアやエジプト、リビア、イエメン、シリアで独裁体制が崩壊しましたが、同時に社会の不安定化も招きました。混乱に乗じて過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭しています。アメリカ、ロシアをはじめ、サウジアラビアやイランなど地域大国も介入し、武力紛争で多数の犠牲者や難民が生じる事態に陥っています。「アラブの春」で、独裁者が統治してきたアラブ世界は大きく変わりました。もはや独裁は不可能になり、民主化にも行き詰まり、宗派、部族単位の分裂が強まって極めて統治が難しくなったということです。しかし、民主化を目指す過程で、各国はそれぞれ困難を抱えました。選挙を行うと組織の結束力が強く、反汚職を掲げるイスラム勢力が勝ちます。しかし、既得権益層は権力の移譲や教義の押しつけを認めることができないということです。その結果、武力で覆すケースが出ました。リビアは憲法制定を目指して数回の選挙を実施しましたが、民意はその度に変わりました。結果として二つの政府ができ、双方が武力を持って正統性を主張するようになりました。イエメンは選挙をせずに多様な勢力の代表による対話を進めましたが、結論を認められない反対勢力が政府を放逐しました。シリアは政権の弾圧で地方住民が離反し、義勇兵が入って内戦に陥っています。
アラブ世界は元々、政府が正規軍の他に特殊部隊など複数の武装組織を持っており、政治が分裂すると武力も分裂、拡散します。また各勢力が宗派などを頼りに周辺国などに援助を求めるため、国際政治も宗派紛争化しました。チュニジアは軍が強くなく、労働組合などが政党間を仲介していたため、辛うじて民主化の道を進んでいます。昨年は第二次大戦後最大の人道危機と言われましたが、今年はより事態が悪化する可能性があります。今後は長い時間をかけて宗派や部族で似通った人たちが住み分けしていく流れがいっそう進むということです。その過程で難民はさらに増えるだろうと予測されています。
ISイスラム国はアラブの春の混乱で存在が可能になった組織であり、国際社会の攻撃が激しくなれば、今の場所から移動する可能性があります。無秩序の場所は必ず存在するからです。この混乱は基本的に地元の対立に根ざしているので、国際社会はできるだけ関わらない方がいいと見なされています。しかし、人道危機は進行するし、アメリカが関与しなければロシアの関与が強まるというのが国際社会の力のバランスです。先行きを読むのは難しい模様です。