シンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)は、今年もベトナム東部海域(南シナ海)への強引な進出を続ける中国の異質性が際立ちました。各国の代表は、中国がこの海域で進めている軍事拠点化を一斉反発する姿勢を明らかにしました。
シャングリラ対話
中国の主権主張は受け入れられない
今年のシャングリラ対話の主な議題は予想通りベトナム東部海域の問題になりました。この1年、中国はこの海域で大規模な埋め立てを行って人工島を建設すると共に、軍事拠点化を進めているのです。対話で、アメリカ、日本、イギリス、フランス、インドなどの高官は一斉に、国際法の遵守と航行の自由の保障を中国に呼びかけました。
対話の開幕演説で、タイのプラユット・チャンオチャ首相は、「ベトナム東部海域問題はアジア太平洋地域の安全保障上の7大問題の一つで、地域の安全保障バランスが崩れている」と述べ、警戒感を示しました。チャンオチャ首相は、関係各国に対し、自国の民族主義を減らし、相互信頼の醸成に取り組むよう呼びかけました。
アメリカのカーター国防長官は対話での講演で、中国がこれらの行動を改めなければ「自らを孤立させる万里の長城を築くことになる」と指摘しました。とくに注目したいのは、この海域のスカボロー礁の埋め立てに中国が着手すれば「アメリカと周辺国は行動を起こすことになる」とカーター氏が警告したことです。しかし、カーター氏は、ベトナム東部海域問題は各国にとって大きな試練でありながらも、中国とほかの関係国が紛争防止体制を築くチャンスであるとの考えを示しました。
中国軍の孫建国・連合参謀部副参謀長がベトナム東部海域問題で「域外国の干渉」を批判したのに対し、日本の中谷元(げん)防衛相は、輸入原油の9割、天然ガスの6割がベトナム東部海域を通るため、日本にとっても極めて重要な問題だと強調しました。また、「人類史上から見ても、あのような大規模な埋め立てと構築物を造るのは見たことがない。一方的な現状変更は認められない」と中国に自制を促しました。
法の支配と協力を求める
そして、中谷防衛相は、常設仲裁裁判所の裁定に中国が従わない場合に関し、「法の支配の観点から日本として強く声をあげざるを得ない。南シナ海問題は法の支配の根幹に関わり、いかなる国も部外者たりえない」と強調しました。
タイのチャンオチャ首相は関係各国に対し、対抗ではなく、協力の選択肢を選ぶよう呼びかけ、1982年国連海洋法条約を始め、国際法に従って問題を平和的に解決することの重要性を強調しました。また、ASEAN東南アジア諸国連合の団結と中心的役割の発揮は問題解決に貢献するであろうとの考えを示しました。
フランスのルドリアン国防相も、1982年国連海洋法条約が世界全体で効果的に適用されていると述べ、同条約の遵守の重要性を強調しました。また、海軍艦艇をこの海域に派遣して定期的に航行するようEU欧州連合各国に近く提案する考えを示しました。
第15回シャングリラ対話を通じて、ベトナム東部海域問題は国際社会の大きな関心事であり、問題を解決するためには、国際法の遵守と協力の精神が非常に重要であるということがわかることでしょう。