この間、朝鮮民主主義人民共和国と韓国の相互脅威により、朝鮮半島の情勢は緊張しています。国際世論は60年前と同じような戦争が勃発するか懸念しています。
3月30日、朝鮮民主主義人民共和国は政府、政党、団体名の「特別声明」で「この時刻から北南関係は戦時状況に入った。すべての問題は戦時に準じて処理される」と宣言しました。
声明は「今後いかなる挑発行為に対しても、予告なしに物理的行動をとる。局地戦にとどまらず、全面戦争、核戦争にまで広がることになる」と警告しています。攻撃目標にはアメリカ本土やハワイ、グアム島、韓国の米軍基地だけでなく、大統領府や韓国の行政府、韓国軍基地も明示しました。
キム・ジョン・ウン第1書記
また、朝鮮民主主義人民共和国は4月1日、国会に相当する最高人民会議を開き、核開発を強化する姿勢を明確にしました。単なる脅しだけにとどまらず、次は軍事行動に出るのではないかという懸念が韓国で強まっています。これに先立つ3月31日にはキム・ジョン・ウン第1書記が核開発の強化と経済再建を進めると宣言し、核を軍事力の要と位置付けました。
米韓への挑発も連日のように続けています。3月下旬には対外宣伝サイトで「3日で終わる短期即決戦」を公開しました。大量のミサイルを韓国に撃ち込んだうえで、ソウルなどの大都市に侵攻するという作戦計画を描いてみせました。3月29日には金第1書記が米本土などの米軍基地を攻撃するための待機態勢を取るよう ロケット部隊に指示を出しています。
こうした中、アメリカは、ステルス戦闘機などに続いて、新たに、弾道ミサイルを追尾・撃墜できるイージス艦や、海上配備型の高性能レーダーを、朝鮮民主主義人民共和国近海に展開させ、最大限の警戒態勢を敷いています。
これまで韓国では、核爆弾を搭載できるアメリカ軍の「B-2爆撃機」や、レーダーで捕捉が難しい「F-22ステルス戦闘機」が相次いで軍事演習に参加してい ますが、アメリカ国防総省は、これらに加えて、弾道ミサイルを追尾・撃墜できるイージスBMD駆逐艦「ジョン・S・マッケイン」を朝鮮民主主義人民共和国近海に派遣したこと を明らかにしました。
しかし、このような緊張情勢においても戦争がなかなか勃発できないとの意見が相次いでいます。正恩氏が核と経済の二股路線をとった背景には、軍部と経済担当幹部の対立があるとみられています。
正恩氏は、核実験では、軍部の主張を受け入れたものの、軍事的緊張で、経済改革どころではなくなってしまったため、今回は、経済再建に、やや軸足を戻し、バランスを取った形です。6年前に失脚したパク・ポンジュ氏を、あえて首相に再起用したのも、経済再建に対する危機感の表れといえます。
朝鮮民主主義人民共和国は連日、核攻撃に言及するなど、国際社会への威嚇を続けていますが、実際には、軍事的な挑発を行う兆候は見られていません。
核と経済の二股路線のうち、正恩氏が、軍事的な挑発行動をとろうとする軍部をどこまで抑えて、経済再建を進める選択ができるのか、今後の動きを慎重に見極める必要があります。