
シリアに派遣された国連の職員
シリアに化学兵器の廃棄を迫る国連安全保障理事会の決議を受けて、OPCW=化学兵器禁止機関は、シリア国内にある化学兵器の廃棄を進めるため、今月1日から国連の専門家と共に査察チームを派遣しています。
査察チームは、シリア政府から提出された化学兵器の量や施設の場所などの情報を基に、6日、軍事施設を訪れ、化学物質を搭載するロケット弾や化学兵器の製造 設備などを破壊する作業を始めました。現場では、化学物質を搭載するためのロケット弾を、戦車で押しつぶす作業が行われたということです。査察チームは、シリア政府との事前協議に十分な時間を取る予定でしたが、シリア政府側が協力的であることから、当初の予定より早く作業に着手したものとみられます。査察チームは、来年半ばまでに、シリア政府が国内の軍事施設に保有しているとみられるおよそ1000トンの化学兵器の廃棄を目指しています。
しかし、こうした軍事施設は、今も激しい内戦が続く戦闘地域や、反政府勢力が制圧した地域にも点在していることから、査察チームが計画どおりに化学兵器の廃棄を進める
ことができるかが焦点となっています。
OPCWのアフメト・ウズムジュ事務局長は、シリア化学兵器庫の破壊は「長く困難な」過程になるとしながらも、作業の「建設的な始まり」を歓迎しました。
国連の潘基文(バンキムン)事務総長は7日、シリアの化学兵器廃棄に関し、安保理に書簡を送り、国連と国際機関・化学兵器禁止機関の合同 チームを約100人に拡大することなどを勧告しました。書簡は、合同チームの廃棄計画が極めて危険で「これまでに試みられたことのない作 業実施を目指す」と強調しました。OPCWは8日、定例の執行理事会を開き、シリアの化学兵器を調べる査察官を増派する方針を明らかにしました。人数は明確にしていませんが、国連 と合同で約100人規模とみられます。
シリアの化学兵器廃棄の進展は国際共同体からの前向きな評価を受けています。ロシアのプーチン大統領は8日、インドネシア・バリ島で開かれたAPEC=アジア太平洋経済協力会議首脳会議に合わせてアメリカのケリー国務長官と会談した後の記者会見で「シリアについて中期的に何をどのようにすべきかという問題で、アメリカと共通認識を得た」と発言しました。化学兵器の廃棄に「シリア当局は極めて精力的に取り組んでおり、その作業は極めて透明性が高い」と述べ、アサド政権が化学兵器禁止機関と国連の合同査察チームによる廃棄作業に協力的であることを強調しました。
一方、アメリカのケリー国務長官は、シリアの化学兵器の廃棄を目指して現地入りしているOPCWが化学兵器の関連設備の破壊を始めたことについて、アサド政権が協力的に対応していると評価しました。これらは、シリアの化学兵器の廃棄過程にとって良いスタートであることでしょう。
OPCWの査察官がシリアにおける責任ある計画を全うするために順調な活動を進めていることは否認できません。しかし、およそ1000トンの化学兵器を完全に廃棄する2014年半ばまでの時間はかなり長いです。それだけではなく、客観的条件やシリア内戦情勢がこの計画を左右する恐れもあります。従って、シリアにおける化学兵器の全廃計画が、達成されるか否かという質問の回答はまだ出ていないままです。