既にお伝えしましたように、アメリカのバイデン副大統領は、日本や韓国、中国への歴訪を行っています。当初の目的はアメリカとこの3カ国との経済貿易関係の強化とされていましたが、中国がADIZ=防空識別圏を設定・発表したことにより地域情勢の緊張が増している背景の中で行われたこの歴訪はその緊張の緩和に寄与すると期待されています。しかし、実際の動きから見れば、その目的が達成しにくいと評されています。
バイデン副大統領と習国家主席(写真:BBC)
バイデン副大統領は4日、中国を訪問し、中国の習近平国家主席と会談しました。この席で、中国による防空識別圏の設定に「深い懸念」を伝え、これを容認しないとの立場を表明しました。バイデン氏は「偶発的な衝突を回避するために日中間で危機管理の枠組みをつくるべきだ」と強調し、中国が東シナ海上空にADIZを設けたことで高まった緊張を緩和するための措置を取るよう求めました。
これに対し、習主席は「国防上必要だ」という中国の原則的な立場を繰り返し主張し、撤回する考えがないことを示しました。
これより前の11月26日、アメリカは中国への事前通報なしにB52=戦略爆撃機2機を中国が設定したADIZに派遣しました。日本など国際世論はこれを中国に対する明らかなメッセージとして見なし、歓迎していました。読売新聞など日本のマスメディアは「中国の外交的孤立は、今や決定的になりつつある」とまで主張しました。
しかし、11月29日にアメリカ当局が同国の民間航空会社に中国のADIZに従うよう促したことを受け、ムードは一変しました。「アメリカが中国とアジア地域に送っているシグナルは紛らわしい。これは良い状況とはいえない」と批判も出ています。
中国による一方的なADIZ設定を受け、太平洋に権益を持つアメリカや、日本、韓国各政府では動揺が広がっています。ADIZを空域の早期警告システムとして活用している国は多いですが、中国のADIZには日本と領有権を争う尖閣諸島も含まれ、日本のADIZとも一部重複しています。
アメリカ政府は民間機についての声明で、中国のADIZ設定を受け入れない意向を明言しましたが、日本政府は困惑を示しています。というのは、中国によるADIZ設定を受けて飛行計画を提出した日本航空と全日本空輸に対しこれを取りやめさせたからです。
こうした中、国際世論は「アメリカの言動と行動の間の矛盾は分かりにくいものではない。というのは、アメリカが国益を守るために世界で影響を広げている中国に背を向けることができないからだ」と指摘した上で、「今回のバイデン副大統領の歴訪が問題解決に寄与することは望めない」との見方を示しています。