ベトナム中部高原地帯テイグエン地方の文化について触れるならば、この地に住む少数民族のドラに関わる文化を抜きにして語ることはできません。しかし、現代生活の影響で、ドラ文化が披露される空間が小さくなっており、その文化が消滅してしまう恐れがあります。こうした事態を前に、テイグエン地方にあるザライ省で、ドラ文化の空間の保存を目指す取り組みが展開されています。

ザライ省プレーク市イエンド地区の若手ドラチームの演奏

コントゥム省、ザライ省、ダクラク省、ラムドン省、ダクノン省の５つの省からなる中部高原地帯テイグェン地方には１７の少数民族が住んでいますが、バナ族、ソダン族、コホ族、エデ族、ザライ族などこれらの少数民族のほとんどが、ドラ文化を誇っているという共通点を持っています。

ドラの音は、人の心や思いを表しています。人間の悲しみ、喜び、怒り、期待などを示したり、この地域の歴史を物語ったりします。昔から、地元の人々は赤ん坊が生まれた時や亡くなった人がいる場合など、生活の中で起こるさまざまな冠婚葬祭にドラをよく使っています。また、テイグェン地方の人々はドラが人間と神との橋渡し役を演じることができると信じています。ですから、ドラはこの地方の信仰と言っても過言ではありません。そして、ドラは貴重な財産で、親から子へと受け継がされます。昔は、ドラは2頭の象、あるいは20頭の水牛に相当する時代もありました。

こうしたドラの演奏空間は2005年11月、ユネスコ＝国連教育科学文化機関により、人類の口承及び無形遺産の傑作として認定されました。しかし、生活の現代化の影響で、ドラの演奏空間が小さくなっているため、この空間の保存は差し迫った課題となっています。テイグエン地方の各省の中で、ザライ省は、ドラの演奏空間を守ることに成功している省の一つです。

（テープ）ドラの演奏

お聞きいただいているのは、ザライ省プレーク市イエンド地区の若手ドラチームが演奏したものです。このチームのメンバーは17人ですが、全員が青少年です。チームリーダーのシュー・トゥムさんがイエンド地区に移住した2008年に、この地区にはドラチームが一つありましたが、皆、年を取った人です。ドラへの若者の興味が薄くなったので、ドラを演奏できる若者が少なかったです。ドラの演奏が大好きなシュー・トゥムさんは、子どもにドラの演奏を教える無料クラスを開くことにしました。それ以来、イエンド地区では、ドラを演奏できる若者が増えつつあり、結婚式や新築祝いなどすべてのイベントでドラの音が再び響き渡るようになりました。シュー・トゥムさんは次のように話しました。

（テープ）

「若者がインターネットや外来文化に興味を持ちすぎで、ドラ文化への関心が薄くなったので、若者たちにドラ文化の面白さと良さを教えたいというのが最初の考えでした。先祖代々から伝わるドラ文化は素晴らしいです。実際、若者たちはドラ文化について理解すればするほど、より深い興味を持つようになりました。」

貴重なドラを手入れしているシュー・レン村長

ドラの演奏を学ぶ若者が増えつつあることをみて、ドラはかつてのようにコミュニティに欠かせない存在となり、家族の重要な財産ともなっています。ザライ省イアグライ県イアオ村の村長シュー・レンさんは、2つのドラセットを持っていると述べ、次のように話しました。

（テープ）

「先ごろ、豊作によって得たお金で貴重なドラセットを１つ買いました。このセットは、葬式や新築祝い、水牛の儀式など重要な行事でしか使いません。また、子と孫にこれらのドラセットを大切にするようにと、よく教えています。」

現在、ザライ省は、テイグエン地方にある5つの省の中で最も多いドラを保存している省です。2020年の統計によりますと、ザライ省には5600以上のドラセットがあり、その中で、貴重なドラセットは930以上です。ザライ省では、毎年、県レベルや町レベル、村レベルの様々なドラ演奏コンテストや披露会などが頻繁に行われるなど、ドラ文化の保存活動が盛んになっています。ザライ省プレーク市の文化情報課のグエン・スアン・ハ課長は次のように語りました。

（テープ）

「毎年、プレーク市はドラセットを買って各村に贈るとともに、子どもにドラの演奏技術を教えるクラスを開いています。これらのクラスはベテランの村長や演奏者が教えるもので、多くの子どもを引き付けています。」

ザライ省はドラ文化を効果的に保存するため、ドラの演奏空間の保存に力を入れています。ドラは元々、村の行事で使われる楽器なので、ドラの演奏ができる行事を行うことは効果的な対策です。ザライ省文化スポーツ観光局のグエン・ドゥク・ホアン副局長は次のように語りました。

（テープ）

「ザライ省は2009年に国際ドラフェスティバルを、2018年にテイグエン地方のドラフェスティバルを行いました。また、村の行事の回復も進めています。そして、ドラの演奏を課外活動として学校に導入することを提案しています。」

近年、ザライ省では、ポコ川のボートレースや、チュダンヤ火山の祭りなど、多くの伝統的な行事が回復され、ドラの演奏空間を作り出しています。これらの行事は国内外の観光客をひきつけ、地元の観光に大きな弾みをつけています。そのため、ドラの演奏空間の保存は伝統文化の保存だけでなく、住民の生活改善にも貢献していると言えるでしょう。