ドンホー版画



山崎  こんにちは、山崎千佳子です。

ソン こんにちは。ソンです。今日のハノイ便りはドンホー版画についてです。

山崎 ドンホー版画、有名ですね。私は持っていないんですが、お土産やさんなんかで見ますね。

ソン そうですね。ベトナムでは木版画を制作する地域はいくつかありますが、やはりドンホーが一番有名ですね。

山崎 世界的に知られていると思います。ドンホー村はハノイの近くですよね。

ソン はい。ハノイから東へ35キロのところ、バクニン省にあります。ホン川の支流のドゥオン川沿いに位置するこの村にはおよそ200世帯が住んでいます。
山崎 ドンホー版画はいつぐらいからあるんですか?


ドンホー版画 - ảnh 1
ソン 16世紀頃と言われています。そして、17世紀から18世紀にかけて、版画の制作が最も発展したといわれています。

山崎 今はどうですか?

ソン 昔はドンホー村の多くの人が木版画制作に携わっていたんですが、現在は版画で生計を立てている家は2軒だけになっています。

山崎 2軒ですか?200世帯のうちの2軒ですね。

ソン はい。戦争の影響や、版画の需要が少なくなっていることが理由です。

山崎 およそ500年という長い歴史を持っているものですから、なくならないでほしいですね。

ソン そうですね。これまで残ってきたのは、ドンホー版画がベトナム人の日常生活と伝統的文化をモチーフにしているからなんです。

山崎 なるほど。身近なものが描かれているからなんですね。

ソン はい。ベトナムの風物詩や教訓、風刺などもテーマになっています。ベトナム語を表記するために漢字を応用して作られた文字、チュノムで書かれた文が添えられた版画もあります。

山崎 カメラがない時代の写真のようなものだったのかもしれませんね。貴重な記録といえますね。

ソン そうですね。それと、版画職人たちは、豊かで幸せな生活への願いをこめて、版画を制作していました。

山崎 魂のこもったものなんですね。

ソン はい。昔の人は正月に家を飾るため、ドンホー版画を買っていました。ベトナム人の大部分が貧しかった時代、せめて正月だけは華やかにしたい、また、その一年、いい年を過ごしたいという願いをこめて、ドンホー版画を飾ったんです。

山崎 縁起物としても使われたんですね。今、ドンホー村で版画制作を専門にしているのは2軒だけということでしたが、その家では先祖代々、受け継がれてきたんですか?

ソン そうです。ドンホー版画の保存に取り組んでいる職人、グエン・ダン・チェー(Nguyen Dang Che)さんをご紹介しましょう。代々、ドンホー版画を作る家庭に生まれたチェーさんですが、長年、大学で教鞭をとってきました。退官後、この伝統的な版画を保存するため、版画作りを行わなくなった家々を回ったんです。

山崎 何をしたんですか?

ソン 100以上の古い版木(はんぎ)、絵や文字などを彫刻した木版を買い戻しました。

ドンホー版画 - ảnh 2
ドンホー版画『ネズミの嫁入り』

山崎 なるほど。保存活動の第一歩ですね。そのチェーさんの話です。

(テープ)

「ドンホー版画と言えば、だれもが『ネズミの嫁入り』 ( Dam cuoi chuot)の版画を知っていることでしょう。学ぶことの大切さをテーマにした『誉れ高い科挙試験合格者の帰郷』 ( Vinh qui bai to) という版画もあります。日常生活が描かれているんです。」

山崎 ドンホー版画の特徴は、その材料と色彩です。全て、自然のものが使われているそうです。

ソン 版画に使われる紙は「ゾー」という木の皮から作られています。ゾー紙と呼ばれています。

山崎 ゾー紙。カタカナのゾーにペーパーの紙、ですね。ゾーは、特別な木なんですか?

ソン はい。ベトナム北部のクアンニン省、トゥエンクアン省、タイグエン省にしかないんです。この木の皮がやわらかくて、丈夫な上、墨などで書いても、色褪せしにくいと言われています。

山崎 へえ。いいことずくめの素材ですね。

ソン そうなんです。さらに、ゾー紙の色の乗りを良くするために、特別に作った糊を表面に塗ります。そうすることで、普通の手すき紙にはない、独特の光沢が出るんです。先ほど話を聞いた版画職人グエン・ダン・チェーさんの義理の娘(Vu Thi Dung)さんが説明しています。

(テープ)

「ゾー紙に、砕いた貝殻ともち米を混ぜて作った糊を塗ると白くなります。日差しがあると、少し干すだけで固くなります。でも、風が吹くと、すぐだめになってしまうんです。ゾー紙の作り方はシンプルですが、難しいです。」

ドンホー版画 - ảnh 3

ソン すりつぶした貝殻を使うので、ドンホー版画には独特のつやがあります。版画制作に携わるグエン・ティ・オアン(Nguyen Thi Oanh)さんの話です。

(テープ)

「私は、ある程度放置しておいた貝を使っています。とってきたばかりのものは殻が硬くて、砕くのが難しいんです。長くほおっておくと柔らかくなって、粉々にするのが簡単になります。」

ソン ドンホー版画に使用される色の原料もすべて自然のものです。これも版画に独特な色彩をもたらします。グエン・ティ・オアン(Nguyen Thi Oanh)さんの話です。

(テープ)

「昔から使われてきた材料を使います。黒は竹の炭で、赤はれんがから、青は藍や銅の錆、黄色は槐(えんじゅ)の花の蕾などから作ります。」

ソン このような独自の材料とベトナムの文化や日常生活をモチーフにしたドンホー版画は、外国人にとっても魅力的なものとなっています。

山崎 そうですね。お土産さんにあるのがその証拠ですね。

ソン 2013年には、ドンホー版画が国の無形文化遺産として認定されたんです。

山崎 版画制作に関わる人が少なくなっている中で、この国の認定は重要ですね。

ソン そうですね。版画職人が増えることを期待したいです。

山崎 では、おしまいに、一曲お送りしましょう。「~」です。

(曲)

「~」をお送りしました。

今日のハノイ便りは、ベトナム北部バクニン省のドンホー版画についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。

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