クメール族に受け継がれる「ドム・ロン・ネアック・ター祭」
(VOVWORLD) - ベトナム南部のヴィンロン省では、毎年太陰暦の4月に、乾季から雨季へと季節が変わる頃に、少数民族クメール族の「ドム・ロン・ネアック・ター」という特別なお祭りが開催されます。
ネアック・ター像 |
このお祭りは、単なるイベントではありません。地域の守護神や村のために尽くしてくれた人たちへの深い感謝を込めて、そして順調な天候と豊かな実り、平穏な日々への祈りを捧げる、とても大切な行事なのです。さらに、世代を超えて人々をつなぎ、地域の結束を強める役割も果たしています。
祭りの準備から始まる地域のつながり
(クメール族の音楽)
お祭りの準備は約1週間前から始まります。「アチャー」と呼ばれる、伝統文化に詳しい長老たちが年配の方々と一緒に各家庭を回ります。お祭りの日程をお知らせし、みんなで供物を用意しましょうと呼びかけます。祭礼の実行委員長を務めるアチャー・タック・チアさんは、次のように説明してくださいました。
(テープ)
「ネアック・ターは村の人々を守ってくださる神様です。地域の発展や安全のために貢献してくださった方は、亡くなった後も村の人たちから敬われ、像が作られて大切に祀られます。ネアック・ターを祀る信仰は決して迷信ではありません。地域に尽くしてくださった方々への感謝の気持ちを表し、みんなの結束をより深めるためのものなのです」
神様に捧げる供物も多彩 |
豊かな供物に込められた願い
神様に捧げる供物も実に多彩です。焼き豚に鶏、お酒、バナナ、ココナッツ、お米、塩、ココナッツオイル、赤い糸、季節の果物、お菓子などが並びます。どの品物にも、人々の真心がこもっています。
地元のアチャー、ソン・ソンさんは、こんな風にお話ししてくださいました。
(テープ)
「昔から私たちの祖先は、このネアック・ターを祀る儀式を大切に行ってきました。平穏な暮らしを祈り、病気が流行らないよう願ってきたんです。この行いを通じて、ネアック・ターが私たちを理解し、お守りくださると信じているからこそ、年に一度、必ずこの儀式を続けているのです」
厳かな儀式から楽しい交流まで
祭祀の儀式はとても厳かに進められます。アチャーが祈りを捧げ、線香が燃え尽きるまでの間に3回お酒を注ぎます。そして一年間の農作物の状況を神様に報告し、村の人たちの健康と豊作を願うのです。
儀式が終わると、今度は楽しい時間の始まりです。供物は集落みんなの懇親会で分かち合われます。ソン・ソンさんは続けて教えてくださいました。
(テープ)
「この儀式は、昔からの習わしに従って、特定のネアック・ターがお守りくださる場所で行われます。そして同時に、家族みんなが集まり、お互いに交流を深める大切な機会でもあるんです。ご近所同士の絆や、地域の団結がより強くなるんですよ」
お坊さんたちが祝福の読経を行い、お祭りの由来を振り返り、天候と豊作、村の平安を祈ります。 |
音楽と踊りで盛り上がる夕べ
(クメール族の音楽)
夕方になると、各集落の人々が寺院に集まります。お坊さんたちが祝福の読経を行い、お祭りの由来を振り返り、天候と豊作、村の平安を祈ります。そして祭りの雰囲気は、伝統の五音音楽やサ・ダム太鼓の力強い響き、昔から伝わる遊びでいっそう盛り上がります。
地元住民のタック・キアさんは、伝統を守ることの大切さについても語ってくださいました。
(テープ)
「私たちにとって、ネアック・ターを祀る信仰は伝統文化を維持するという大切な意味も持っています。ですから、私たちは常に若い世代への指導に力を注ぎ、この儀式が途絶えることのないよう努めています。年々お祭りはますます盛大になり、人々が自発的に手伝ってくれるようになっています」
国の文化遺産に認定
このドム・ロン・ネアック・ター祭は、地域を結ぶ大切なかけ橋として、平和な生活と豊作への人々の願いを表現し続けています。そしてその文化的価値が認められ、昨年、ベトナムの文化・スポーツ・観光省により国の無形文化遺産に認定されました。
これは地元のクメール族の大きな誇りとなっており、地域の観光振興や農村開発にも貢献しています。
古くから受け継がれてきた伝統が、現代でも人々の心をつなぎ、地域を豊かにしている。そんな美しい例の一つが、このドム・ロン・ネアック・ター祭なのです。