山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
ソン こんにちは、ソンです。先週のハノイ便りで、ベトナムの領有権問題とそれに関連する文化についてお伝えしましたが、今日のハノイ便りは、チュオンサ諸島の灯台についてです。
山崎 先週のおさらいになりますが、領有権問題で揺れているのが、ベトナムの東部海域、いわゆる南シナ海です。その海域にあるのが、チュオンサ諸島、日本では南沙諸島と言われていますね。英語名ではスプラトリー諸島になります。
ソン はい。そこで、中国はベトナムの漁船を拿捕したり、埋め立て工事を進めたりするなどして、国際社会から批判を浴びています。
山崎 領有権問題は、ベトナムの一般の人たちの関心事になっていますか?
ソン そうですね。みんな、チュオンサ諸島に関するすべてのことに関心を寄せていると言えます。中でも、チュオンサ諸島の灯台がいろいろなメディアで取り上げられました。
山崎 灯台。灯台は、船が海の上での位置を知るための航路標識と言われていますけど、灯台を建てればそこはその国と言えるものかもしれませんね。
ダラット礁の灯台
ソン はい。チュオンサ諸島には9つの灯台があります。最初の灯台は、1994年に建てられました。チュオンサ諸島はベトナム本土から離れているので、建設はとても大変だったようです。
山崎 そうですね。島といっても、それぞれがとても小さいんですよね?
ソン そうなんです。ベトナムが実効支配している島の中で、チュオンサ島は一番大きい島なんですが、面積が15ヘクタールです。現在では、小学校や病院などもありますし、滑走路や港も整備されています。携帯電話の電波も届いています。
山崎 すごい。思っていたより、発展していると感じました。全てのインフラがそろっている訳ではないかもしれませんが、1つの町ですね。
ソン はい。今は環境が整えられています。でも20年前は、兵士の駐屯地以外は何もない状態でした。
山崎 そうですよね。チュオンサ島はもともと小さな島だったということですが、珊瑚礁だった島もありますよね。そこに灯台を作ると言うのは本当に大変だったと思います。チュオンサ諸島の灯台を管理しているという東部海域・離島航行安全保障公社の計画課課長(グエン・ドゥック・フイさん)の話です。
(テープ)
「悪天候の時には、灯台の建設材料を島に運ぶのはとても大変です。すぐ事故につながるからです。ある島の灯台を建設中には、なかなか天気がよくならずに、輸送船は3ヶ月間ずっと島から出られないという状況でした。材料がなくなってしまっても、本土から運ぶしかないので、天気の回復を待つしかありません。平均で、1つの灯台ができるのに、2ヶ月半から3ヶ月ぐらいかかっていました。」
チュオンサ島
山崎 灯台の建設も大変そうですが、何もない離島だとその後の維持も大変ですよね?
ソン そうなんです。2ヶ月に1度、灯台の部品や管理スタッフの食料、必需品を運ぶ船が出るんですが、毎年、海の天気が荒れる時期があるので、その時には船がなかなか出航できなかったりするんです。
山崎 それは厳しいですね。スタッフの生活はもちろん、灯台のメンテナンスに必要なものがないとせっかくの灯台が機能しなくなってしまいますよね。
ソン はい。ですから、島に駐在しているスタッフは、灯台に不具合はないか、常に点検しているんです。
山崎 この20年、チュオンサ諸島の灯台で働いているというスタッフ(ヴー・シー・リューさん)の話です。
(テープ)
「この海域の塩水は強力ですね。灯台設備の結露を拭いているんですが、数分後には、すぐに塩水の水蒸気がつくんです。さびにくいステンレススチールもさびついたことがあるくらいです。」
山崎 灯台の部品も大切ですけど、スタッフの生活にかかわる食料も重要ですよね。2ヶ月ごとの輸送船というと、生鮮食品はないですか?
ソン そうですね。そういうものはできるだけ自分たちで作って、自給自足になっているようです。1つの灯台では通常4、5人がシフト勤務で働いています。24時間体制です。シフトに入っていない時は、野菜を栽培したり、豚や鶏の世話をしているんだそうです。
チュオンサ諸島の灯台を点検しているスタッフ
山崎 本来の灯台の仕事が休みでも、食料確保というまた別の仕事があるんですね。大変ですね。野菜は畑で作っているんですか?
ソン いえ、小さい鉢に種をまいてそこで栽培しているということです。先ほど、塩分の多い結露の話がでましたが、そういう塩水の水蒸気が野菜につかないようにしているんだそうです。
山崎 辺り一面海ですからね。日差しが強かったり、塩水に囲まれた中での野菜栽培は、相当気を遣わないとできないですよね。
ソン そうなんです。そして、常に真水が不足している島では、野菜に水をやる時などは一滴でも鉢植えの外に落ちないようにしなければなりません。
山崎 こういう島では、野菜は本当に贅沢な食べ物になっているんですね。
ソン そうです。それから、精神的にも大変です。灯台を管理するスタッフは、半年は島、半年は本土という勤務スタイルで働きます。
山崎 島にいる間は、自分の家族と連絡は取り合えるんですか?
ソン この数年で、ほとんどの島には携帯やラジオ、テレビの電波が届くようになりました。それ以前は、電報と、2ヶ月に1回の船で届けられる手紙だけが連絡手段でした。
山崎 そう考えると、今は信じられないぐらい便利でいい時代ですよね。携帯電話が使えると状況が全く変わりますね。
ソン でも実際は、周りには海しかないという生活なので、精神的に強くないとかなり厳しいと思います。家族に何かあっても、すぐには帰れません。
山崎 そうですね。でも、みなさん、それぞれ使命感を持って、お仕事されてるんですよね。
ソン はい。自分の仕事が国の領有権に直接関係するということを十分に理解していて、日々がんばっています。仕事を誇りに思っていて、自分の子供が病気の時などでも、島へ出発するそうです。
山崎 プロですね。チュオンサ諸島では、これから更に灯台が建設されていく計画だということです。灯台を管理している東部海域・離島航行安全保障公社社長(グエン・ズイ・ヒエットさん)の話です。
(テープ)
「交通運輸省に、ベトナムが実効支配しているチュオンサ諸島の21のすべての島に灯台を建設するよう提案しています。現在、13の島には灯台がありません。灯台は、船の安全を守る他に、東部海域におけるベトナムの領有権を主張する大事なものなのです。」
山崎 灯台にも、様々な意味があるんですね。
ソン はい。灯台スタッフをベトナム人は、「灯台の兵士」と呼んでいます。
山崎 なるほど。ある意味、命がけの仕事と言えるかもしれませんね。では、おしまいに、一曲お送りしましょう。
(曲)
「~」をお送りしました。
今日のハノイ便りは、チュオンサ諸島の灯台についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。