在日実業家ブイ・タイン・タム氏が語る“ベトナムの味を世界へ”の挑戦

(VOVWORLD) -来る10月20日、在日ベトナム人実業家ブイ・タイン・タム氏が手がける「バインミー・シンチャオ」ブランドが創立9周年を迎えます。


このおよそ10年にわたる歩みの中で、「バインミー・シンチャオ」ブランドは困難や試練、そして事業継続が危ぶまれる時期もありましたが、今もなお力強く成長を続けています。現在、日本全国に、バインミー・シンチャオ」ブランドは26店舗を展開し、ベトナムの食文化を世界へ広げる架け橋としてさらなる拡大を進めています。今回は、ベトナムの声放送局の記者がブイ・タイン・タム氏にお話を伺い、ベトナムの食文化の味を日本から世界へ”という情熱をお届けします。

 在日実業家ブイ・タイン・タム氏が語る“ベトナムの味を世界へ”の挑戦 - ảnh 1ベトナムのバインミー

記者:バインミーはベトナムを代表する料理の一つですが、日本各地の消費者の嗜好に合わせて、レシピや素材を調整された部分はありますか?
ブイ・タイン・タム氏:バインミーは19世紀にフランスからベトナムへ伝わりましたが、ベトナム人の創意工夫によって、独自の進化を遂げました。フランスのバゲット、パテ、ハムに、ベトナムのなます、香草、チャー(ハム)を組み合わせ、庶民的でありながら洗練された、アジアとヨーロッパの融合料理が誕生したのです。この魅力こそが、国籍や人種を超えて多くの人に愛される理由だと思います。日本では非常に厳格な食品衛生基準がありますが、それを遵守しつつ、本場の味はできる限りそのままにしています。そのうえで、日本人のお客様の「ヘルシー志向」に合わせ、エビバターやチキンサラダのバインミーなどを追加し、メニューを多様化しています。“ベトナムの味”というアイデンティティを守りながら、地元の人々の嗜好にも寄り添う——それが私たちのポリシーです。

 在日実業家ブイ・タイン・タム氏が語る“ベトナムの味を世界へ”の挑戦 - ảnh 2ブイ・タン・タム氏(タム氏が提供された写真)

記者:現在、持続可能なビジネスモデルは、世界的な動きとなっていますが、「バインミー・シンチャオ」はどのようにして“持続的な経営”を実施しているのでしょうか。
ブイ・タン・タム氏:この質問が大好きです。というのは、私が日本で起業したとき、最初に学んだのが“持続可能な経営”だからです。日本では江戸時代から伝わる「三方よし(さんぽうよし)」という考え方、つまり「売り手よし、買い手よし、世間よし」という三者がともに利益を得るという原則のもと、多くの企業が長期的な経営を行っています。実際、日本には創業100年を超えた企業がおよそ3万社にのぼっており、そして1400年を超える企業も存在しています。こうした企業は国内だけでなく、世界にも広がっています。私たちの「バインミー・シンチャオ」も同じ理念を大切にしています。創業してから、私たちは“急がず、着実に、正確に”。単に商品を売るのではなく、ベトナムの文化を伝え、コミュニティをつなぐ。店舗を増やすことが目的ではなく、ブランドの基盤を強く、永続的に築くことを目指し、日本で築いた確かな土台をもとに、世界へと羽ばたいていきたいと考えています。
記者:日本で起業された経営者として、この経験からどのようなことを学ばれましたか? そして、これまでの歩みの中で最も誇に思うことは何でしょうか。
ブイ・タン・タム氏: 先ほども申し上げましたが、私たちは日本の方々から多くのことを学びました。それは「謙虚さ」や「丁寧さ」だけでなく、「社会に対する高い責任感」です。そして、持続可能な経営は単なるトレンドではなく、道徳的な義務であるということを深く理解しています。もし企業が「今日だけ良ければいい」と未来を犠牲にするのであれば、その企業は存在する価値がありません。この考え方は「バインミー・シンチャオ」にも通じています。私たちは、単にベトナム料理を販売するだけではなく、そこに息づく“ベトナムの魂”を守り抜くことが何より大切だと考えています。どんなに美味しい料理でも、文化の魂を失えば、いずれ人々の記憶から消えていくでしょう。
私たちが売っているのは「バインミー」というパンではなく、一つの民族の記憶であり、文化の結晶なのです。それをやさしく包み、世界へと届けているのです。私たちにとって「持続可能性」とは、単なるビジネスの理念ではありません。それは、文化を守り、育て、そして誠実な形で世界に発信していく旅路なのです。
いつの日か、日本の人々も、アメリカや韓国の人々も、手にしたベトナムのバインミーを見て微笑む。その瞬間こそ、ベトナム文化が生き、息づき、そして現代のベトナム人の鼓動とともに世界へ歩み出している証だと、私は信じています。

 在日実業家ブイ・タイン・タム氏が語る“ベトナムの味を世界へ”の挑戦 - ảnh 3「バインミー・シンチャオ」の従業員

記者:最後に、これから起業を目指す若い人たち、特に「飲食」分野で挑戦しようとしている方々へ、どんなメッセージを伝えたいですか?
ブイ・タン・タム氏: 飲食業で起業を行うことは、とても美しい旅路ですが、非常に厳しい挑戦でもあると思っています。なぜなら、「飲食」は単なるビジネスではなく、「感情の産業」だからです。人は料理を“食べる”だけでなく、“感じ”、“記憶し”、“信じる”ものなのです。私は「もし料理を“売る”ことだけが目的なら、すぐに疲れてしまう。けれど、料理を通して自分の物語を“語りたい”と思うなら、その旅はきっと遠くまで続く」とよくスタッフに話しています。ベトナム料理の難しさは、「美味しい料理が少ない」ことではありません。本当の課題は、「現代的な伝え方」や「一貫した体験」、そして「誠実に仕事をする精神」がまだ足りないということです。私にとって、飲食の仕事とは流行を追うことではなく、自分の作る料理が10年、20年先にも価値を持ち続けるかどうか、それがすべてです。食の世界での成功は、レシピを真似することからでは生まれません。それは、味覚や文化、そしてお客様の声に耳を傾ける力から生まれるのです。どの土地にも、その土地ならではの「食の言葉」があります。だからこそ、遠くへ進みたいなら、料理やサービスを現地の暮らしに自然に溶け込ませる工夫を凝らすとともに、ベトナムの魂を失わないように努力するということです。起業の道とは、単にビジネスを築くことではなく、心と倫理を育てる“成長の旅”だと、私は思っています。
お客様を家族のように想い、料理を自分の子どものように慈しみ、そして毎日を「善意を届けるチャンス」として生きるそれこそが本当の“起業”ではないでしょうか。
ベトナム料理には、まだ無限の可能性があると私は信じています。今の若いベトナム世代には、愛と知恵、そして誇りをもって、ベトナムの味を“世界共通の言葉”にしていく力があると思います。
記者:本日はありがとうございました。そして「バインミー・シンチャオ」の、さらなるご発展をお祈りもうしあげます。

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