山崎 こんにちは、山崎千佳子です。
ソン こんにちは、ソンです。今日のハノイ便りは、漁業関係者への優遇政策についてお伝えします。
山崎 ベトナム政府が行っているものですね。
ソン はい。ベトナムは海に面した国です。海岸線は全長3260キロにもなるんです。
山崎 南北に長いですからね。やはり漁業は盛んですか?
ソン そうですね。社会が近代化されるにつれて、他の産業も強くなってきましたが、昔から多くの人が携わっている水産業は重要視されて、関係者に色々な優遇政策が取られています。
ベトナムの漁船
山崎 ベトナムの海は、最近ちょっと落ち着かないですよね。
ソン そうなんです。ベトナム東部海域、いわゆる南シナ海で領有権問題が起きています。その領有権を守るという意味でも重要な役割を果たしている漁業関係者への支援は、社会全体の大きな関心事となっているんです。
山崎 ベトナム東部海域、日本では南シナ海と言っていますが、この地域はエネルギー資源が豊富なんですね。そのほぼ全域の領有権を主張している中国は、国際社会から強い反発を受けています。
ソン はい。中国は、この海域にあるベトナムのチュオンサ諸島で大きな埋め立て工事を進めていて、人工の島を建設しているんです。
山崎 ベトナム語でチュオンサ諸島と呼ばれるのが、南沙諸島、英語名はスプラトリー諸島になりますね。
ソン はい。中国の行動は地域の平和と安定を脅かしています。ベトナムだけでなく、フィリピンやマレーシアなどの排他的経済水域と大陸棚など、多くの国の領有権を犯しています。
山崎 昨年、2014年に入ってから、ベトナム漁船が中国に攻撃を受けたというニュースが多くなってきましたよね。日本でも報道されました。
ソン いまだに続いているんです。中国当局は「自国の海だ」という勝手な主張で、ベトナムの漁船を拿捕したり、漁師たちを殴ったりしています。沈没した漁船もあって、死者も出ました。でも、ベトナムの漁業関係者はそれに屈せずに、その海域で漁を続けています。
山崎 本当に命がけですね。だから、ベトナム政府も漁業従事者に優遇政策を取るんですね。
ソン そうです。海の領有権を守る部隊の1つと考えているんです。関係者には、低金利の融資や無料保険の提供など様々な支援が行われています。中国側の攻撃で被害を受けた漁師を援助する募金運動も全国各地に広がっています。
山崎 政府の優遇政策の内容は具体的にどんなものですか?
ソン はい。去年の7月に閣議決定された支援策は、漁船の造船を奨励するものです。
山崎 低金利の融資でですか?
ソン そうです。ベトナム政府は16兆ベトナムドン、日本円でおよそ860億円を漁船の造船補助金として拠出しました。漁船を作る際には、1%から3%の金利で融資が受けられます。
ベトナムの漁民たち
山崎 普通、銀行で借りるとどれくらいなんですか?
ソン 大体、7%から8%なので、かなり低い金利ですね。そして、漁船が大きければ大きいほど、金利が低くなります。
山崎 今までは資金の関係で小さい船しか作れなかった人たちも、大型船が作りやすくなったんじゃないですか?
ソン そうなんです。また、従来だと、造船のための費用は5割まで融資を受けられる、という規定でしたが、これが7割から9割まで融資を受けられるようになったんです。
山崎 すごいですね。元手がわずかでも船を作れますね。
ソン はい。沖合漁業ができる船を作るには、平均で50億ベトナムドン、日本円でおよそ2700万円かかります。これまでは、一般漁民が5割の融資を受けたとしても、なかなか残りの半分を用意できないという状況だったんです。
山崎 それが最大で9割まで融資を受けられるというのは、大きい船の造船も夢ではないですね。ベトナム中部のクアンナム省で漁師をしている男性(グエン・リエンさん)の話です。
(テープ)
「自分たちの船は小さかったので、遠洋での漁ができませんでした。政府の新しい政策で、大きな船を作れるようになって大変喜んでいます。これから、ベトナムの海や島を守ることに貢献しながら、効率的な漁で利益を上げていきたいです。前進あるのみで、がんばっていきます。」
山崎 ベトナムの漁船はほとんどが木造の小さい船で、沿岸漁業と沖合漁業しかやっていないということですが。
ソン そうです。沖合漁業といっても2週間以上漁ができる漁船は少ないです。そのため、経済的にはまだまだといった現状です。総面積120万平方キロメートルの排他的経済水域と大陸棚を持つベトナムは、まだ十分に海を活用していないと言われています。
山崎 漁業関係者への優遇政策は、ベトナムの漁業の発展に大きな弾みをつけると期待されているようですが、実際にはうまくいっているんでしょうか?
ソン 評価されていますよ。特に、中部のビントゥアン省はこの政策をよく展開している地方の一つです。これまで、ビントゥアン省行政府は、優遇政策の対象になる融資の申し込み150件を受理しています。そのうち、9件は既に造船が完了しています。
山崎 対応が早くていいですね。漁師の人たちは、その手続きや書類の作成などがすぐできたんでしょうか?
ソン とても大変だったようです。でも、行政府はできる限り便宜を図るという方針で、一つ一つ問題を解決していったようです。
山崎 ビントゥアン省の水産業担当者(ファム・ヴァン・チンさん)の話です。
(テープ)
「漁業関係者と直接話し合う機会を設けて、多くの会合を開きました。優遇政策に関する担当者の携帯電話の番号も公表しました。何かわからない点があれば、いつでも電話で聞くことができます。こういった対応で、利用者は融資を受けやすくなりました。」
漁民への募金運動
山崎 今後、ビントゥアン省は、漁自体と水揚げされた水産物の保存に最新技術を導入して、水産物の価値を高めていく計画です。優遇政策によって、100億ベトナムドン、日本円でおよそ5400万円の漁船を作った漁師(グエン・ヴァン・クアンさん)の話です。
(テープ)
「この船で、沖合で漁ができるようになります。実際にやってみないとわかりませんが、乗組員も10人以上ですし、新しい網などを使って、いい漁ができると期待しています。」
山崎 この優遇政策は、最近改正されたということですが、何が変わったんでしょう?
ソン はい。融資を受ける際の条件が緩和されました。例えば今までは、融資額を多くするためにはそれだけの価値のある持ち家がないとだめ、など規制があったんですが、そういった条件が軽減されたんです。
山崎 いいことですね。値段の張る大きい船などもより作りやすくなったんですね。
ソン そうです。ベトナムの海と島を守りながら、遠洋漁業も近い将来できるようになると期待されています。
山崎 では、おしまいに一曲お送りしましょう。
(曲)
「~」をお送りしました。
今日のハノイ便りは、漁業関係者への優遇政策についてお伝えしました。それでは、今日はこのへんで。