ベトナム語で、カー( Ca)  は歌、チュー( Tru) は札という意味です。歌に対するご褒美というか、聴いていた人から竹でできた札をもらって、その札に書いてある金額をもらったことから、カーチューと呼ばれるようになりました。

カーチューは３つの伝統楽器の演奏に合わせて、古いベトナム語の詩を歌うものです。演奏に使われる３つの伝統楽器は 弦楽器のダンダイ ( Dan Day) 、打楽器のファック ( Phach) 、それにチョンチャウ( Trong Chau) という太鼓の３つです。歌詞の内容のほとんどが、祖先や神を称えるものです。

15世紀から19世紀のころ、カーチューは村の集会所や資産家の家、宮廷などで特別な日に上演されてきました。その後は、村の祭りや結婚式、長寿を祝う席などでも行われるようになって、庶民の間にも広まりました。

カーチューがハット・クア・ディン( Hat cua dinh) 、集会所の歌、内容によって、ハット・アー・ダオ( Hat a dao) 、女性の歌と呼ばれたり、ハット・クア・クエン( Hat cua quyen) 、宮廷の歌となったり、ハット・ニャー・トー( Hat nha to) 、官邸の歌など、他の多くの呼び方もあります。

カーチューは北部のフート省から中部のクアンビン省までに歌われています。全土でなくても、１５の省や市と広い範囲になるので、保存活動が難しくなっています。

ハイフオン市トゥイグエン県ドンモン村が北部沿海地帯におけるカーチューの発祥地の一つとされています。昔から、この地区ではカーチューの創始者を祀る神社があるだけでなく、カーチューの歌手が多く生まれる地方として知られてきました。この200年、カーチューが地元の人々にとって欠かせない精神的な拠り所となってきました。

長年来、ドンモン村のカーチュークラブは活動を行っており、数多くのカーチューの歌い手を育成し、カーチューに対するこの村の若者の愛を育んでいます。このクラブのメンバーであるドウ・テイ・イエン( Do Thi Yen) ちゃんとグエン・キム・ガン( Nguyen Kim Ngan) ちゃんはいずれもホアビン小学校2号の生徒です。彼女らの話を聞いてみましょう。

＊「このクラブに参加したのは3ヶ月前のことです。打楽器のファックの打ち方と簡単な歌を歌えることができます。祖父母がカーチューの歴史について語ってもらいました。この伝統的芸能を続けたいのです」

＊「小学校1年から、家で母からカーチューの歌い方を教えてもらいました。カーチューが好きです。毎週、村の集会所に行って、カーチューの歌い方を学びました。母がカーチューを上演する時、一緒に行ったこともあります」

今から200年前、ドンモン村でカーチューが歌われました。当時、北部ハイズオン省のカーチューの職人はドンモン村の人々にカーチューを紹介しました。1940年代ごろ、ドンモン村でカーチューが広く普及させました。2018年のカーチュー全国のど自慢大会で、「優秀な演奏者」という称号を取得したカーチューの公演に伴奏される楽器の演奏者トゥ・バン・トエン( To Van Tuyen) さんは次のように語りました。

（テープ）

「昔、ドンモン村にあるすべての子どもはカーチューの歌い方を学びました。村人の殆どはカーチューの公演で生計を立てました。村に来るといつでも歌声や楽器の演奏の音色を聞こえました。ドンモンの多くの人々は優秀な芸人になり、国内各地で上演を行いました」

その後、戦争のせいでカーチューが消滅寸前に追い込まれた時もありましたが、1990年代に入り、カーチューが徐々に復活されるようになりました。カーチューの多くの芸人は高齢で亡くなりましたが、ドンモン村の若者は村の伝統を継承して、カーチューの保存、発展に力を入れています。

現在、ドンモン村の祭りや重要な行事、学校の場でカーチューがよく上演されています。ホアビン1号小学校でカーチューを教えている歌い手チン・テイ・ホアイ・ナム( Trinh Thi Hoai Nam) さんは次のように語りました。

（テープ）

「私たちはカーチューの維持、保存のため様々な活動を行っています。今後、カーチューの保存のため、訓練コースを開きます。また、学校の諸活動にカーチューがよく上演されます」

カーチューがドンモン村の精神的生活に欠かせないものとなるだけでなく、この村の人々の人格や美意識を育むものとなることでしょう。