ベトナム東部海域(南シナ海)を巡り、フィリピンが申し立てた国際的な仲裁裁判で、裁判所は12日、中国がこの海域のほぼ全域に管轄権を主張しているのは「法的根拠がなく、国際法に違反する」という判断を示しました。この判決は、1982年国連海洋法条約の多くの規定を明らかにするもので、この海域での紛争解決に道を開く法的根拠となっていると評されています。
オランダ・ハーグ仲裁裁判所(写真:PCA)
紛争の原因となる定義を明確に
今回の判決は、ベトナム東部海域での紛争の原因であるとされる定義を明らかにしました。まずは、中国がこの海域に独自に設定した「九段線」と呼ばれる境界線について明確な見解を示しました。中国が「九段線」の内側に「主権」や「管轄権」、それに「歴史的権利」があると主張していることについて、裁判所は「法的根拠がなく、国際法に違反する」という判断を示しました。その理由について裁判所は「中国がこの海域や資源に対して歴史的に排他的な支配をしてきたという証拠はないからだ」としています。
そして、中国がベトナムのチュオンサ(英語名スプラトリー)諸島に造成した7つの人工島について、裁判所は、もともと、潮が引いたときだけ海面上に現れる「低潮高地」か、人が住まない「岩」だったという判断を示しました。国連海洋法条約では「低潮高地」や「岩」には、排他的経済水域や大陸棚は認められず、中国の人工島の周囲では排他的経済水域や大陸棚は認められないことになりました。
ベトナム外務省戦略研究所の副所長チャン・ベト・タイ博士は、この判決は、国連海洋法条約を間違い方向に意図的に説明したうえで、ほかの国の主権を侵害する主張を出すことに終止符を打つと述べ、次のように語りました。
(テープ)
「これは海洋関連法律にとって大きな前進だと思います。今回の判決により、「島」や「岩」に関する定義が初めて明らかにされ、紛争の原因が抑制できるようになります。ベトナム東部海域では、現在、中国が主張している「九段線」そのものは拡大大陸棚や資源開発などに関する紛争の原因で、「九段線」を認めないこの判決は地域の平和と安定の維持に貢献すると思います。」
チャン・ベト・タイ博士
ドイツの国際関係専門家ジェルハード・ウィル氏は、「この判決は裁判の当事者である中国とフィリピンだけでなく、関係各国全てにも拘束力があるので、それぞれの国はベトナム東部海域に関する自国の主張を再検討しなければならない」と述べました。
海上紛争の判例へ
ワシントンに本部を置く民間シンクタンク国際戦略研究所の専門家グレグ・ポリン氏は、今回の判決は海上紛争にとって重要な判例となり、仲裁手続きを通じて海上紛争を解決することを奨励するとの考えを示しました。先ほどのタイ博士は、今回の判決で、1982年国連海洋法条約の多くの規定を分析した上で、明確にするもので、同条約の適用において重要な法的根拠となっているとしています。タイ博士は次のように語りました。
(テープ)
「今回の判決は、法支配の精神を明らかにし、仲裁裁判所の判例を豊かにするもので、国際法の発展に貢献するでしょう。また、判決は、海上紛争、特にベトナム東部海域での紛争の原因を削減します。そして、判決は、国連海洋法条約の説明や適用に対する各国の認識を強化し、自国の主権保護を目指す法的手段となります。これは、地域と世界の平和と安定に貢献する重要な前進であると思います。」
このように語ったタイ博士は、今回の判決を遵守することは全ての国の責任であると強調しました。